メスを持たない日には

外科医の、寄り道

海外ドラマレビュー「Slow Horses:窓際のスパイ」

カメレオン俳優、ゲイリー・オールドマンの存在感が際立つ

Slow Horses (2022) on IMDb

個人的評価:★★★(3.5/5)

はじめに

私は断固としてApple信者ではないが、テレビを買ったときにたまたまAppleTV+の3か月無料特典が付いてきたので、まあこの時だけはリンゴでも齧ってやるかという気分になった。

さてApple TVだがあまり目ぼしい海外ドラマがやっていない。何を観ようかとスクロールしていると少し前に後輩が面白いと言っていたドラマを思い出した。タイトルは覚えていなかったが、ゲイリー・オールドマンが主演ということだけは記憶していたのですぐ見つかった。

それにしてもまず、この日本語のタイトルは何だ。黒柳徹子じゃないんだから。公園で遊び疲れた小学生が、トイレで糞をしながら思いついたのかとしか思えないようなタイトルだ。お尻ぺんぺんモノである。英題を残してサブタイトルにしてくれただけでもグッドジョブとしよう。

どんなドラマ?

このドラマを一言で表現すると、「イギリスらしいユーモアたっぷりの異色スパイドラマ」である。今のところシーズン3まで出ていて、1シーズン6話完結型。出ているキャラはみんな正にイギリスっぽい風貌で、その服一体いつ買ったんだよという格好。 

 主人公のLambたちはMI5*に属するものの、過去に何らかの失態を犯してSlough House(沼地の家)と呼ばれる暗い建物に左遷されている。なるほど、皆一癖も二癖もあるキャラクターなのも頷ける。なかでもLambは特級のキャラの濃さ。部下への皮肉は苛烈そのもの。日本人の部下ならノイローゼになっているだろう。ドクターハウスのHugh Laurieもそうだが、この手の偏屈上司はイギリス人が本当に良く似合う。

 彼らの仕事ぶりは正にSlow Horses(遅い馬)ではあるが、元敏腕スパイのLambの統率?もあって回り道をしながらも何とか良い仕事をするようになっていくのだった。目の肥えた海外ドラマファンでも楽しめる、骨太な感じだ。

*MI5:イギリス国内で諜報活動を行う情報機関。007が所属するのは国外活動を行うMI6。

見どころと感想

このドラマの面白いところは、Slow Horsesと敵対するのが同じMI5組織の本部である点と、敵対とはいえ真っ向から殺し合うわけではなく表向きはあくまで協力という形で裏で駆け引きをする点だ。ここがいかにも「諜報」らしくて見ごたえがある。

 それからもう一つは、登場人物全員の「パッとしない感」。あの名作Line of Dutyを思わせる。紅茶を淹れてスコーンを食べながらじっくりと観るに相応しい、そんなドラマなのである。

 シーズン1を見終えた感想としては、このドラマの魅力の大部分が主演俳優に依存している感は否めない。存在感が大きすぎる。でも脚本がしっかりしているのでシーズン1は十分楽しめた。6話完結というのもよろしい。次のシーズンでどれだけ飽きずに観られるのかが分岐点になるだろう。