さて久々に、哀愁の兵庫シリーズを更新したい。
突然だが私はなぜか、但馬地方にすごく愛着を感じている。
但馬の四季は本当に美しい。春の桜は言うまでもなく、瑞々しい新緑が点々と山肌に交じり始めたかと思えばそれは深いグリーンに変わって夏の訪れを知らせる。秋には他の場所よりも一層早く黄や橙に色づき、涼しい風が吹いたかと思えばもう氷ノ山は新雪を頂いている。
都会で育ってきたのに、いや都会で育ってきたからこそなのか、神戸の活気に息が詰まりそうになることがある。
誰かが傍に居てくれるということは、それはそれで素晴らしいことなのだけれど、ただじっと時の流れに揺られたい時だってあるのだ。
そんな時には無性に、何も物言わぬ自然に身を浸したくなる。
やっぱり人間は、自然から生まれたものなのだから、誰もが心のどこかでは自然の中で過ごす孤独に焦がれているんだと思う。
そんな但馬へは、2年前の夏から月に1回か2回仕事で行っている。
同じ兵庫県かと信じられないくらいに但馬地方の冬は厳しい。私はスタッドレスタイヤを買うことを惜しんだため、雪のシーズンには電車で4-5時間かけて向かうことになる。地方へ向かう電車と言えば閑散としていてもの寂しいイメージがあるが、但馬地方の日本海側はカニの名産地であるが故、老若男女で賑わいを見せる。年頃のカップルに交じって髭面の男が1人で座っているのは、何となく目立つ気がして気恥ずかしいものだ。
但馬は広い。京都府に接するカニで有名な城崎がある豊岡市から、鳥取県に接する新温泉町まで東西に広がっている。広いぶん、養父のあたりと、新温泉町とでは方言も違って聞こえる。無論、「関西弁」のなかでも最も辺縁にある方言と思ってよい。
さて日本海沿岸部はカニやホタルイカなどが旨いが、少し山手の養父市には八鹿豚と呼ばれるブランド豚がある。さらに朝倉山椒という山椒や、明治元年創業の谷常さんが作る「鮎のささやき」という銘菓も有名だ。しかし神戸に住む私にとっても車がないとアクセスが悪いため、県外からの旅行者や海外からの観光客にはハードルが高い。訪問者の多い城崎からの流れを作ろうにも、繁忙期のカニシーズンは雪のためなかなか難しいのかもしれない。我々の休みだとせいぜい一泊二日のため、足を延ばして近隣の観光までするには短すぎる。となると、近年著しい増加を見せる海外観光客をターゲットに何とか「城崎以外の但馬」へのマイクロツーリズムを提案していきたいところだ。
と、いつの間にか但馬地方の振興について考えてしまっている。とにかく確かなことは、日本を離れた時に私が郷愁を覚えるのは神戸のオシャレな街並みではなく、但馬地方の大自然とそこに流れる穏やかで平和な時間・人々の暮らしであることは間違いないのである。