メスを持たない日には

外科医の、寄り道

哀愁の兵庫 part1「神戸以外の兵庫」

兵庫は、ひろい。

どれほどに広いかといえば、私の棲む神戸市三宮から鳥取県境にある新温泉町浜坂まで車で3時間弱かかるのである。これは実に神戸から数県を跨いで、岐阜市へゆく距離に匹敵する。その距離がすっぽり一つの県に収まるのだから、如何にひろいかということが良く分かると思う。

神戸という街は「百万ドルの夜景」として有名な摩耶や、異人街の北野をはじめ、全国に名の知れた街である。しかし、兵庫県の一つの市町村に過ぎない「神戸」が独り歩きし、明石市で生まれたひとが「神戸生まれ」と自称するという、憂うべき場面に出会うこともしばしばである。
憂う、と書いたが私はべつに「神戸以外の兵庫県」出身でもなく、むしろ東大阪市という日本に誇るモノづくりの街に生まれたことを誇りに思っている。
しかし―――
これだけ広い県のなかで神戸だけが知名度を独占し、その主人である兵庫にも勝ろうというこの奇異な事態を目の当たりにするにつれ、「神戸以外の兵庫」に対する慕情が生まれてきたのである。

この「哀愁の兵庫」シリーズではそんな私の「神戸以外の兵庫」に対する思いを文章にかえて、紀行文のような形で綴っていくつもりである。